結論:『正欲』は、ある「特殊な性的指向」を持つ人たちと、彼らと関わる人々の人生が交錯していく長編です。社会が「多様性」を掲げるとき、そこから取りこぼされている人は誰なのか。読者自身の価値観を揺さぶる作品として大きな反響を呼び、柴田錬三郎賞を受賞。2023年には稲垣吾郎・新垣結衣の出演で映画化されました。
- こんな人におすすめ:社会のあり方を問う小説を読みたい人/「多様性」という言葉にどこか違和感を覚えたことがある人/映画版を観た人
- 注意:読み手の価値観を強く揺さぶる内容。気持ちに余裕があるときに
『正欲』の基本情報
- 著者:朝井リョウ(1989年生まれ)
- 出版社:新潮社(単行本 2021年3月)/新潮文庫
- 受賞:第34回柴田錬三郎賞
- 映像化:2023年に映画化(監督:岸善幸、出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗)
主な登場人物
- 寺井啓喜:横浜に住む検事。不登校の息子を持つ
- 桐生夏月:広島のショッピングモールで働く女性
- 佐々木佳道:夏月の中学時代の同級生
- 神戸八重子:男性への苦手意識を抱える女子大生
- 諸橋大也:八重子が通う大学のダンスサークルの男子学生
あらすじ(ネタバレなし)
検事の寺井啓喜は、YouTuberになりたいと言い出した不登校の息子との関係に悩んでいます。広島のショッピングモールで働く桐生夏月は、誰にも言えない秘密を抱え、周囲との違和感を感じながら毎日を過ごしています。大学生の神戸八重子は、学園祭で「ダイバーシティ」をテーマにしたイベントを企画し、ダンスサークルの諸橋大也に惹かれていきます。
住む場所も年齢も違う人たちの人生が、ある事件をきっかけに少しずつ交わっていきます。
読みどころ(ネタバレなし)
1. 「多様性」という言葉への問い
作中で繰り返し問われるのは、「多様性を認めよう」と言うとき、私たちが想像できている多様性はどこまでなのか、ということです。理解しやすい少数派だけを受け入れ、想像の外にいる人を排除していないか。読み手自身の視点が問われます。
2. 複数の視点が交差する構成
検事、モールの店員、大学生など、まったく違う立場の人物の視点が交互に描かれます。それぞれの「正しさ」がぶつかり合う構成が、物語に緊張感を生んでいます。
3. 孤独とつながり
誰にも理解されないと感じながら生きてきた人が、同じ秘密を持つ誰かと出会ったとき、何が起きるのか。社会派の問題作であると同時に、孤独な人同士のつながりを描いた物語でもあります。
【ネタバレ注意】物語の核心
※ここから先は物語の核心に触れています。未読の方はご注意ください。
- 夏月と、中学時代の同級生・佳道は、どちらも「水」にまつわる、人に理解されにくい特殊な性的指向を持っていました。二人は再会をきっかけに、互いを守るための「契約」のような結婚生活を始めます。
- 物語の終盤、佳道や大也は、ある事件の容疑者として逮捕されます。しかしそれは、彼らの本当の指向が理解されないまま、社会がわかりやすい「異常」の枠に当てはめた結果でもありました。
- 検事の啓喜は、その事件の取り調べを通じて、自分の「正しさ」では理解できない人々の存在に直面します。
考察:タイトル「正欲」の意味
「正しい欲」とは誰が決めるのか。社会は、理解できるものを「正常」、理解できないものを「異常」として線を引いてきました。この物語は、その線の外側に置かれた人たちの孤独と、それでも誰かとつながろうとする切実さを描いています。読み終えたあと、自分がどちら側に立っていたのかを考えずにはいられません。
映画版『正欲』(2023年)
岸善幸が監督し、検事の寺井啓喜を稲垣吾郎、桐生夏月を新垣結衣、佐々木佳道を磯村勇斗が演じました。第36回東京国際映画祭で最優秀監督賞と観客賞を受賞しています。
読者の評判・口コミの傾向
『正欲』は、多様性という言葉の裏側を問いかける作品として大きな反響を呼びました。「価値観を揺さぶられた」という感想が多く見られます。
よく見られる高評価の声
- 「多様性」という言葉を気軽に使っていた自分に気づかされたという声が非常に多い
- 読み終えた後、しばらく考え込んでしまったという感想が目立つ
- 朝井リョウの最高傑作だと評価する意見も多い
気になる点として挙がる声
- テーマが重く、読むのにエネルギーが必要だという声がある
- 登場人物の考え方を受け入れられず、拒否感を覚えた人もいる
※読書メーター・Amazonなどに寄せられた読者レビューの傾向を、当サイトで要約したものです(2026年10月時点)。
『正欲』を読んだ人におすすめの朝井リョウ作品
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- 『何者』(2012年):平成生まれ初の直木賞受賞作。就活とSNSの裏側
- 『何様』(2016年):『何者』の登場人物たちのアナザーストーリー集
- 『死にがいを求めて生きているの』(2019年):「螺旋プロジェクト」平成編。対立と生きがいの物語
- 『世界地図の下書き』(2013年):児童養護施設で暮らす子どもたちの坪田譲治文学賞受賞作
- 『武道館』(2015年):武道館を目指すアイドルグループの光と影
- 『スター』(2020年):映画と動画、「本物」をめぐる二人の若き映像作家
- 『生殖記』(2024年):異色の語り手が描く現代社会。2025年本屋大賞8位
- 『少女は卒業しない』(2012年):取り壊される高校の卒業式の日、7人の少女の別れ
- 『イン・ザ・メガチャーチ』(2025年):現代日本の「救い」を描く話題作